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『RIVER』

 
       
作品データ
制作年・国 2012年 日本
監督 廣木隆一
出演 蓮佛美沙子、中村麻美、根岸季衣、菜葉菜、柄本時生、田口トモロヲ
公開日 2012年9月27日
       

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『ヴァイヴレーター』、『軽蔑』と若者の激しくも刹那的な愛をギリギリのところまで描いてきた廣木監督。秋葉原殺傷事件をモチーフに、今までのタッチとは異なり、主人公を見守るような距離感が印象的な作品だ。秋葉原殺傷事件で亡くなった彼の面影を探す主人公の旅は、いつしか秋葉原に集う人たちや、そこで働く人たちの”他では得られない何か”を探す姿までも切り取っていく。

蓮佛美沙子演じる主人公ひかりの凍った心が少しずつ解けていく様子をキャメラは引いた角度から静かに捉える。テレビドラマなどで見る雰囲気とは違い、思わず見守りたくなるような存在感だ。冒頭15分間、秋葉原の街をそぞろ歩くひかりの後ろ姿を追いかけるキャメラには、時には撮影を意識し、時には全く無関心に通り過ぎる人々の姿も映り込み、リアルな秋葉原の表情も垣間見える。メイド喫茶オーナーに誘われるままメイド姿でバイトするシーンでは『ヘブンズ・ストーリー』の菜葉菜も登場、他ではない自分になれる場所である秋葉原で割り切って働く人間を好演している。

最後にたどりついた人物、彼のことを知る男は、震災の地に親がいるものの、捨て台詞を残して飛び出してきたので戻れない。「秋葉原も、テレビも、ミラーに映る自分もみんな現実。」現実から目をそらさず、それを受け止める覚悟ができたとき、ひかりは生きる力を、そして男は震災の地に向かう勇気を得た。震災の地を慟哭の表情で歩く男に寄り添うキャメラ、何かを主張するのではなく、ただそこにある現実を男と共に見つめるのだ。

秋葉原殺傷事件を再現して見せるのではなく、事件によって味わう大きな喪失感と、そこから一歩前へ踏み出すまでを描く再生の物語は、今まだ多くの苦しみを抱える被災者への静かなメッセージなのかもしれない。
 

    

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