制作年・国 | 11年 日本 |
---|---|
上映時間 | 2時間9分 |
原作 | 古谷実『ヒミズ』(講談社) |
監督 | 園子温 |
出演 | 染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、でんでん、光石研、渡辺真起子、神楽坂恵、黒沢あすか他 |
公開日、上映劇場 | 2012年1月14日~新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、シネリーブル神戸、Tジョイ京都他全国ロードショー |
受賞歴 | 第68回ヴェネチア国際映画祭最優秀新人俳優賞受賞(染谷将太、二階堂ふみ) |
~3.11後の日本、狂気の中の純愛がここにある~
独特の切り口と演出で、人間のドロドロした感情を炙り出す「園子温ワールド」を繰り広げている園子温監督が、自身も大ファンという古谷実原作の話題作『ヒミズ』を映画化。第68回ヴェネチア国際映画祭で本作の主演、染谷将太、二階堂ふみが最優秀新人俳優賞をW受賞したニュースも記憶に新しいだろう。もう一つ特筆すべきは、本作が3.11の大震災以降はじめて、長編劇映画の中で震災後の情景を描き出していることだ。被災した若き二人の絶望と未来への希望が痛々しいまでにほとばしる。
中学3年生の住田祐一(染谷将太)は、成長してごく当たり前のまっとうな大人になることが夢だった。そんな祐一にクラスメイトの茶沢景子(二階堂ふみ)は想いを膨らませ、祐一をつけまわす日々。だが祐一も景子も家族の愛に恵まれず、一人暮らしとなった祐一は、学校を休んで家業のボート屋に専念する。景子は必死で祐一の手助けをすることに喜びを感じていたが、2人の人生を狂わせる大事件が起き、祐一の中の歯車が狂い始めるのだった。
祐一の住む池辺の地帯には、被災して家を亡くした大人たちがテントを張って小さいながらも暖かいコミュニティーを作っている。一方、祐一の両親は息子をほったらかし好き放題、挙句には金をせびる始末だ。親の身勝手さ、周りの大人の寛容さ、そして、いくつだろうが誰にも頼らず生きていかなければならない現実を突き付けられたとき、夢など語っていられない絶望と狂気の世界に堕ちていく。染谷将太が演じる祐一の大人や世の中に対しる絶望感や、焦燥感が、悲痛な叫びとしてスクリーンからこだまし、心揺さぶられた。
祐一にひたむきな恋心を抱く景子も、最初は自分の想いを伝えたいとストーカーのようにつきまとうが、祐一が窮地に陥れば陥るほど、マリアのような慈悲深さと包容力を備えもってくる。一筋に祐一を想い、励まし続ける景子を演じる二階堂ふみの若さと情熱は、次第に震災で傷ついたすべての人への応援歌にも聞こえた。まっすぐに想いを伝えることの大切さ、そして今が永遠ではないことを景子は知っているのだろう。
祐一や景子を取り巻く大人たちにも、震災の悲哀が浮かび上がる。会社をなくし、自分の夢を祐一に託すつもりで彼の窮地を助ける元社長や、そんな元社長に冷ややかなアドバイスを送るヤクザのボスなど、園子温作品常連俳優たちが震災後も力強く生き抜く訳ありの大人たちを好演。狂気の中に光が見える唯一無比の純愛物語は、どうしようもない大人たちの中で、より一層の輝きを放つのだ。
公式サイトはコチラ